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診療室日記556

高齢になってくると、皆様多少なりとも忘れやすくなる。
加齢のための物忘れなら大丈夫だが、認知症の入り口だと、早めの対応が必要だ。

久しぶりに来たおばあさま。もともとしっかりした人で、自分でデマンドバスを手配して通っていた。その日も今までどおり往復の手配も自分でして、診療予約をとって来院した。

「帰りのデマンドは何時?」
「〇時〇分です」
「じゃ、十分間に合うわね」

そんな会話のあと、麻酔の注射をして削って型をとった。いつもと変わらない光景だった。

診療が終わって、待合室へ移動する際、少し迷った素振りを見せた。今までなかったことだ。

「こちらですよ」
「あらあら~(笑)。方向音痴で(笑)」

待合室へ移動し、会計を済ませたとたん、
「私はどうやって帰ればいいのかしら?」と言った。
「〇時〇分のデマンドですよ。自分で予約したって、言ってましたよ。まだ時間あるから、少し待合室で待っててくださいね」
「あらそう」

見た目はいつもと変わらないのだが。年齢的には、認知症が始まってもおかしくない年齢だ。

彼女が帰ったあと、スタッフと
「始まったのかなあ?」
「そうみたいですね」
「今までになかった反応だよね。身内に知らせたほうがいいよねぇ」
「一人暮らしみたいですよ。移住組やから、身内はわからないですよねぇ」
「なんか探す方法ないかなあ?」
などと話していた。

しばらくして電話があった。
「顔が腫れてるんですけど~」
「麻酔がまだひいてないんですね。だんだんひいてきますから、大丈夫ですよ」
納得して電話を切った。

翌日朝一番でまたまた電話があった。
「夜になっても顔がもどらなくて、歯医者に電話しても誰も出ないし、警察へ電話して事情を話して先生の連絡先を聞いたけど、警察は『個人情報だから教えられない』と言うんですよ。だから、こんなことがあるのかどうか確かめようと思って、あちこちの歯医者へ電話したんです。そしたら何件目かの歯医者さんが電話をとってくれて、『大丈夫だと思いますよ。明日の朝にでもかかってる歯医者さんへ電話しなさい』と言ってくれて・・・
「で、今はどうですか?」
「腫れてるのはひいたけど、唇がゆがんでる」
「たぶん問題ないはずですけど、心配なら来てください」
「すぐには行けませんよ。大丈夫なんですね?」
「来れないなら、様子みてくださいな」
「はい」

その時はそれで電話を切った。


今までにはなかったことが数点ある。

1、夜は歯医者へ電話しても誰も居ないということを忘れている
2、自宅の電話番号を知りたければ、警察ではなく番号案内だ
3、診察券には患者用携帯番号を記してあるのに気づいていない
4、世の中の歯医者のほとんどは夜はしてないので、どこに電話してもとるはずがないということを忘れている


今までは必要な時にしか電話してこなかった人なのだが、その後も何度か電話があった。しかし、訴えがその都度違うのだ。不安なのだろうと思い、来るように勧めるのだが、「行けない」と言って電話を切ってしまう。話をすると満足するようだ。
結局次の予約まで来ることはなく、電話だけ何度かあった。


予約の日、以前と変わらない様子だった。別に不満や不安を言うこともなく~。
「痛みや腫れはいかがですか?」
と聞いても
「別に・・・」とのこと。

電話したことも忘れてるのかなあ?


一時的なものなのか、入り口に入ったのか~。身内を探したくとも、個人情報保護の壁がある。
心配しながら、対応を考えていきたいと思う。


by tamaki50 | 2019-03-13 10:43 | 診療室日記 | Comments(0)
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